現在の顕微鏡を指してマイクロスコープと言うのは、元々はガリレオの友人が命名したものなのです。
医療の世界に導入されたのは、約71年前の1953年に耳鼻科が最初です。
ハンス・リットマンは、テュービンゲンの耳鼻咽喉科医師ホルスト・ウルステインの示唆に基づき、カールツァイスより世界初の手術用顕微鏡 (OPMI 1)が開発、使用されました。
その後、1960年代に眼科・脳神経血管外科・産婦人科、70年代には心臓外科領域、1980年代に形成外科、整形外科などで使用されてきました。
歯科界では、1992年にアメリカのペンシルバニア大学キム教授のもと歯内医療法学(根管治療)分野で開始されました。その質の高い臨床は、世界観が変わるほどのインパクトを我々に与えました。
診査診断、歯内療法(歯の根の治療)、歯周治療(ポケット内の診査・治療)、審美修復治療(詰めたりかぶせたりする治療)、外科治療(歯周外科、口腔インプラント)などに応用されるようになりました。歯科用マイクロスコープの登場により、歯科治療は確実に進歩しました。
USでは1998年に歯内治療学大学院において顕微鏡使用教育が義務化になりました。 アメリカでは
根管治療の専門医には、マイクロスコープの使用が必須となっています。
しかし、いまだに日本において普及が進まない原因としては、機器が高価でコストがかかること、そのコストを保険治療で賄えないこと、よく見えるが故に時間がかかること、高度な精密技術を要すること、歴史が浅いため教育の場がないことなどが挙げられます。
マイクロスコープにより治療の精度が確実に上がることから、今や時代を象徴する機器としてマスコミをにぎわす存在になってきました。顕微鏡による治療は、低侵襲性で歯にやさしい治療方法なので今後、益々必需品になることを期待したいです。
左図
歯内療法(根管治療)では、根の中の神経の通る管の入り口(根管口) が容易に判定でき、また歯牙破折、クラック(ヒビ割れ)なども、より正確に判定でき、より緻密な治療を可能にしました。
マイクロスコープで根の中を覗くと、肉眼では見る事のできない汚れ(感染源)がかなり見えてきます。根管治療では、根尖病変の原因となる細菌を減らしていくことが大事です。根管を綺麗にすることにより症状の改善が望め、根管治療の精度が上がります。
また、マイクロスコープは超音波チップとベストマッチで、根中央部1/3の範囲において根管拡大したり、仕上げの微小切削に役立ちます。
右図
歯周病の治療では、歯の周りの微細な構造、ポケット内や根分岐部の状態の観察、歯根部に移行する部位の精密診断ができ、より的確に歯周治療ができます。また、正確な予後の判定を予想できます。
歯周病治療は、歯が長持ちして快適に噛むことが出来るための重要治療項目の一つです。歯周ポケットの内部に隠れた歯石・歯垢・病変を確認して治療に結び付けるには、マイクロスコープが欠かせません。エアーを吹きかけることにより、ポケット内部の状態を苦痛なく観察し、ストレスフリーでポケット内のスケーリング&ルートプレーニングを目で観察しながら行うことが出来るのが魅力です。
歯肉縁下にできた病的な歯質(虫歯)をマイクロチップやMIラウンドバー等で取り除くことなどにもマイクロスコープを用います。出血を最小限にとどめ、微小な病的歯質を取り除く精密治療には必須です。
また、かぶせ物をした後の余剰なセメント除去にも威力を発揮します。
歯茎の健康のためには、異物であるセメントの確実な除去が必須なのです。
かぶせ物の辺縁に残る余剰セメントは異物として残り、圧迫して歯肉を退縮させたり、プラークが残る原因にもなります。
インプラントにおいても余剰セメントの残存はインプラント周囲の歯槽骨を溶かすという報告もあります。マイクロスコープを用いて確実に余剰セメントを取り除いていきます。