顕微鏡を用いてミクロレベルの精密診査を行うことにより、肉眼では発見できなかった原因が判明して治療方針が決まり、 治癒へと導くことも可能になるのです。
言い換えれば、原因不明だったことが明らかになり、無駄な時間を使わずに済む場合もあります。
歯肉が腫れていると仮定します。
その原因が根の先にあるのか、歯の周囲か、歯の内部からのものかを判断する必要があります。
もし、根の先が原因なら、根管治療が必要になります。
しかし、歯の周囲や根分岐部からなら、歯周病の治療をします。
歯の内部なら虫歯の治療をします。
歯根のヒビ割れのためにそこから感染して歯肉が腫れるケースも考えられます。
ex. CT撮影でレントゲンの影の位置を特定、根管治療をして根を探索する、ヒビ割れ個所を発見。
それらが混在する場合もありますが、マイクロスコープによって正確に診断して無駄な治療は無くしたいです。
歯科用CTレントゲン撮影においても、かなり把握できるのですが、最高で125μの撮影断層(それより微細なものは判断できない)なのではっきりと分からないケースも多いのです。従って、マイクロスコープと歯科用CTの併用が最強でしょう。
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1.顕微鏡を使うときの診療時間
詳細な診査、診断には時間がかかります。
顕微鏡を見ながらの治療も、緻密で集中と根気のいる作業になります。当然それなりの時間がかかります。
しかし、肉眼の判断だけで治療をしているよりも、はるかに正確に判定できるので無駄がありません。
例えば、歯根破折など発見しにくいので、根管治療や歯周病治療を続けてなかなか治らない事があるのです。
ミクロの亀裂に細菌が入り込んで噛むと痛い、歯肉が腫れるなどの悪さをします。
早期の診断が出来れば、治療に無駄がありません。
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2.マイクロスコープのポジショニング
「作業しやすく、良く見える位置」にポジショニングを設定します。 どのような位置でポジショニングを設定するかは、治療内容や、どの歯面を作業するかなどにより、その都度変えていくことになります。一般的に、背筋を伸ばした楽な自然体の姿勢での診療が可能です。
術者の作業位置、顕微鏡の三次元的な設定位置、ヘッドレストの傾き、患者頭部の左右の傾斜角度、開口量、ミラーの方向などの変更により、素早く希望のポジションに合わせます。
上下移動量の調整においては、最近ではマイクロモードの調整機能の付いている診療台があります。
また、焦点範囲の広い(被写体から200ミリ〜300ミリまでの広範囲でフォーカス調整が可能)「バリオスコープ」という対物レンズも登場しました。
直視で作業するだけでは見落としが出る可能性もあるために、ミラーで様々な角度からチェックすることが大切です。反射像を映すには表面反射ミラーというゴーストの現れないミラーを用いるテクニックが必要です。
このミラーは、ロジウムなどのコーティングが施されているため、高反射率を有しており明るい反射像が得られます。また反射像が二重にならないため、目にかかる負担が軽減されます。
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3.バリオスコープ 100 OPMI pico
ピントの調整が100mmと広範囲な対物レンズです。
作業範囲のフォーカスが広いため、ピント調整しなくても済む幅が広がりました。
焦点範囲が広くなることで治療の流れがスムーズになり、効率が上がります。
根管治療などの深度の変わる治療には常にピントの調整が必要でした。
バリオスコープを使えば、根管の入り口から深部まで見通せるので治療効率が上がります。
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4.クラックの診査
歯に「ヒビ割れ」などがあると、「噛むと痛い」「温度変化で痛む」といった症状があらわれ、クラックからの細菌感染が原因で歯髄炎や歯周炎を起こす事もあります。不完全破折、若木破折の状態が進んで、完全に破折してしまえば、歯の保存は難しくなります。
クラックは、顕微鏡下で染めだすと破折線が見やすくなります。
クラックの入る原因は、咬み合わせの力、歯質が薄い、太いコアーが入っている、神経がないなど様々です。
咬み合わせの力は、歯ぎしりや食いしばりだけではなく、早期接触歯、歯周病の骨喪失による加重負担、全体の残存歯が少なくなり負担がかかる場合もあります。
「噛んだ時に音がして激痛が走った」などの情報とも合わせてひび割れや破折の診断に役立てます。
かぶせてある歯の場合、マイクロスコープを覗きながら歯頚部から根管部に向けてエアーを送りながら診査します。冠を除去する前にクラックを発見できることもあります。
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5.歯の磨耗面の診査
摩耗面の付き方により、咬合に関与する度合いを推察します。その部だけ摩耗が強ければ早期接触の可能性もあります。磨耗の部位によっては咬合干渉が推測されることもあります。
摩耗により象牙質が露出した場合には、エナメル質よりも象牙質が軟かいためにその部だけ摩耗の進行が早くなるので注意します。
合わせて、咬み合わせの診査をします。特に最後臼歯の咬頭干渉は、顎関節の異常や不定愁訴などを起こしやすいので問題となります。
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6.虫歯の診査
着色、歯石、解剖的な溝やくぼみなど、虫歯と判断に苦しむことがあります。特に隣接面でミラーを介しても判定が難しいことがあります。また、充填物の辺縁の隙間から内部へ広がるような虫歯は発見が難しくなります。歯肉下へ入り込むように場合には、なおさら発見が困難となります。
そのような時にマイクロスコープを覗けば、容易に的確に判断できます。さらにレントゲンと合わせて総合判断することで精度が上がります。
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7.歯肉の診査
歯肉の形態、色調は部位によって異なり、病態によって変化します。
歯肉についた微小な傷、炎症の状態も診査します。もしかすると、歯ブラシで同じ部分を強く磨き過ぎて傷つけたのかもしれません。
その変化を見逃さないように診査します。
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8.口腔粘膜の診査
歯肉や粘膜、舌の異常は、肉眼的な判断からは判別できない場合もあります。マイクロスコープによりさらに詳しくみていきます。それでも難しければ病理診断します。
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9.画像の記録と診査
マイクロスコープによる画像は、記録として残すこともできます。
その拡大画像を共有して見ることが出来るため、説明や状況の解説が具体的で分かりやすくでき、インフォームドコンセントに役立ちます。
静止画、動画は、後から精査して、診断や治療計画に役立ちます。