修飾因子には、局所性修飾因子と全身性修飾因子があります。
それらが相互に影響し合って歯周病を増悪させると考えられています。
局所性修飾因子はプラーク増加因子と外傷性咬合に大別され、全身性修飾因子は全身疾患や様々な全身状態により現れます。
■ プラーク増加因子(プラークリテンションファクター)清掃性を不良にしてプラークを付きやすくする、プラークを取り除きにくくするリスク因子です。歯石、辺縁不適合な充填、補綴物や歯肉の形態異常などです。プラークコントロールの重要性を認識し、モチベーション持ち続け、具体的な清掃法(テクニック)を身に着けることが必要です。
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・歯石
プラークが石灰化したもので、表面が粗造なためプラークが付着しやすく、取り除きにくい内部にエンドトキシンなどの有害物質を含む
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・歯並びの悪さ
ブラッシングが困難となり、プラーク停滞を起こす。
※ プラークコントロールを妨げる歯の位置異常が存在する場合、あるいは歯列不正による咬合性外傷が明らかな場合には,矯正治療を行うことで歯周治療の効果を高めることができます。
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・食生活
柔らかい食べ物、粘着性のある食べ物、食片圧入など。
プラークが増加しやすい軟らかく砂糖の多い食物を減らし、自浄作用の高い線維性食物を取るように心掛けます。
食事が不規則であったり、栄養が偏っていると、免疫機能が上手くいかず、全身の健康に悪影響を及ぼします。
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・不適合な冠や義歯
わずかな隙間でもプラークが付着する、辺縁や歯間が清掃不良となる虫歯の原因にもなる。修復から時間が経ち、摩耗して削れたり、歯肉部が不適合になってきたものは見逃しやすい。
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・口呼吸
口呼吸をすると口腔が乾燥してプラークが付着しやすくなり、歯茎の抵抗が弱まり炎症がおこり易くなる
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・歯周ポケット
内部はブラシが届かないため清掃不良となる
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・小帯異常
小帯がブラッシング操作を邪魔する。
辺縁歯肉が小帯に牽引されるために歯周ポケットの形成や深化を起こし、内部に炎症が波及する。正中離開や歯間離開の原因ともなる。
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・その他
虫歯やくさび状欠損で穴の開いた部分、歯の形態異常、食片圧入などです。
歯石がたまっている。矢印部は小帯異常でブラッシングがうまくできない。
口腔内カラー写真撮影は,文章や数値で表現するのが難しい口腔内の状態(とくに歯肉や咬合の状態など)を記録・比較することに優れています。
■ 外傷性咬合
歯にかかる過大な力(咬合性外傷、早期接触)は、歯周病をさらに悪化させます。
外傷性咬合は歯周炎の初発因子ではないが、歯周炎を進行させる重要な修飾因子です。
- ・早期接触、咬頭干渉、歯列不正
- ・側方圧、舌や口唇の悪習癖、食片圧入
- ・歯ぎしり、くいしばり、噛みしめ
歯周組織の炎症と歯ぎしり による咬合性外傷が共存するケースでは重度の歯周炎に発展しやすい。
歯ぎしりは、強い咬合力、とくに側方力が歯に加わるため、歯周組織に咬合性外傷を引き起こす危険性があります。
- ※ 早期接触とは、アゴの閉口運動や側方・前方滑走運動時に、ほかの歯よりも先に咬合接触することです。
○ 咬合性外傷の臨床所見
咬合性外傷は、外傷性咬合(過度な咬合力や側方力などの異常な力)によって引き起こされるセメント質、歯根膜、歯槽骨の傷害です。
歯の動揺の増加、早期接触、著しい咬耗、深い歯周ポケットの形成、骨縁下ポケットの形成、垂直性の骨吸収、歯の病的移動、アブフラクション(くさび状欠損)、歯の破折などです。
エックス線所見では、歯根膜腔の拡大、骨の喪失(根分岐部、垂直性、全周性)、歯槽硬線の消失・肥厚、歯根吸収、セメント質の肥厚を伴うことがあります。
○根分岐部病変
根分岐部病変は辺縁歯周組織からの炎症の波及、外傷性咬合、歯周- 歯内病変などによって生じます。
辺縁から波及した歯周病変によるものは、治療法は複雑であり、予後が一般に不良です。
局所性修飾因子は、歯根の形態や離開度、ルートトランクの長さ、歯頸部のエナメル突起などの局所的な解剖学的因子などで、根分岐部への病変の波及やその程度にかかわっています。
歯周病は、プラーク(歯周病菌)などの局所性初発原因のほかに、全身的な要因(リスクファクター)が影響します。食生活,喫煙,飲酒などの生活習慣因子、心理的,社会的ストレスなどといった社会的因子などの環境因子も密接に影響します。
また、歯周病が原因で全身疾患を引き起こしたり、悪化させたりもします。
■ 全身疾患
糖尿病、高血圧症などのメタボリックシンドローム、骨粗鬆症、心臓疾患(細菌性心内膜炎、狭心症、心筋梗塞)、消耗性疾患、腎疾患、脳梗塞、動脈硬化などの全身疾患が代表的です。
防御、免疫機能が障害されたり、歯周組織の抵抗力を減少させ、重度の歯周炎を生じやすくなります。
例えば、関節リウマチは、歯周病に対しても炎症を持続させやすい自己炎症性疾患、自己免疫疾患です。関節リウマチになるとアタッチメントロスおよび歯の喪失が大きいことが知られています。
糖尿病では、免疫系機能障害、末梢血管循環障害、創傷治癒遅延などが歯周炎の病態を修飾します。
肥満の人は歯周病に罹患しやすく、内臓脂肪から産生されるTNF-α(腫瘍壊死因子)が関連していると考えられています。
■ ストレスや疲労、睡眠障害
体の抵抗力を低下させます。
ストレス刺激は、歯周病の重症化に関連し、精神の緊張状態が免疫応答に影響を及ぼします。
さらに、ストレスは、「歯ぎしり」を誘発し、歯周組織の破壊を進行させます。
■ 喫煙
喫煙は、歯周病の環境因子からみた最大のリスクファクターです。喫煙者は非喫煙者に比べて2 〜 8 倍、歯周病に罹患しやすいことが報告されています。
喫煙者では非喫煙者に比較して、プロービング時の出血が少なく発赤も弱く症状が現れにくいという特徴があります。また、喫煙は歯周病の治癒を遅延させるため、歯周治療に対する反応は喫煙者のほうが非喫煙者に比べ低下していることが示唆されています。
ニコチンなどの有害物質により、微小循環障害が起こり、組織の低酸素状態を起こします。
すると、免疫機能が低下し、歯周組織の抵抗性が減少、歯周病の発症・進行を促進させます。
さらに、タールにより歯面が粗造となり、プラークが付着しやすくなります。
しかしながら、重度の喫煙歴のある人でも、禁煙することで歯周病に対するリスクが低下することが知られています。禁煙すること大事です。
■ ホルモンの影響
性ホルモンの増加 Prevotella intermedia(歯周病原菌の一つ) により妊娠、思春期性歯肉炎が生 じます。
閉経後の女性においてはエストロゲン(卵胞ホルモン)の分泌低下で炎症性サイトカインが増加し、歯槽骨吸収や歯周ポケットの深化する可能性があります。
■ 遺伝的リスクファクター
代謝遺伝子異常や炎症免疫関連遺伝子の多型性、遺伝子発現レベルなどの異常が関連すると考えられています。Down 症候群、Papillon-Lefèvre 症候群などは、歯周病の重篤度が高いことで知られています。
■ 薬剤
免疫抑制薬、炎症性サイトカイン標的治療薬、骨代謝関連薬、副腎皮質ステロイドなどは、歯周病の病態に影響を与えます。
フェニトイン(ダイランチン)は、てんかんの治療薬だが、副作用として歯肉増殖があります。
高血圧剤(カルシウム拮抗薬)、免疫抑制薬(シクロスポリン)も薬物性歯肉増殖症が発症することがあるので注意が必要です。
女性の場合、歯周病は大敵で、流産・早産・低体重児出産の危険性があります(早産の確率が7.5倍高いと言われています)。妊娠性歯周炎にもなり易いのです。
歯周病のない人に比べ致命的な心臓発作を起こす危険が約2.8倍とも言われています。
全身的な要因を可能な限り取り除きたいものです。
■ 血管障害性疾患
動脈硬化症や虚血性心疾患(狭心症,心筋梗塞)では、サイトカインが血栓の形成に関与する可能性が考えられています。
■ 誤嚥性肺炎
歯周病原細菌をはじめとする口腔細菌が唾液などを介して気管を通過し、肺に入ると誤嚥性肺炎などが発症する場合があります。
■ 糖尿病
歯周炎により生じる炎症のケミカルメディエーターである TNF α はインスリンの抵抗性を増大させ、糖尿病を悪化させる可能性が報告されています。
■ 早産・低体重児出産
中等度以上に進行した歯周炎をもつ母親は,そうでない母親より早期低体重児を出産するリスクが高いことが報告されています。
■ リウマチ
関節リウマチを有すると、アタッチメントロスおよび歯の喪失が大きいことが知られています。
歯周病菌(P.gingivalis)が関節リウマチの発症に関連しているのではないかと言われています。gingivalisは、生体にとっての異物であるシトルリン化タンパク質の由来物質 PAD を持っている唯一の菌だからです。
■ 肥満
中等度以上に進行した歯周炎をもつ母親は、そうでない母親より早期低体重児を出産するリスクが高いことが報告されています。
■ その他
日常的な菌血症、慢性腎臓病、非アルコール性脂肪性肝炎などの発症、進行に影響を与えるという報告があります。
■ 周術期と歯周病治療
がん治療をはじめとする大手術に際し、慢性感染性疾患である歯周病を治療することは、術後合併症の軽減につながる可能性があると考えられています。