■ 高血圧症
インプラント手術に対するリスクとして問題となるのは、高血圧症の原因となっている動脈硬化が進行して、脳(脳出血、くも膜下出血、脳梗塞)、心臓(狭心症、心筋梗塞、,心不全)、腎(腎障害、腎不全)などに出現している合併症です手術による患者へのストレスが大きいと合併症が発生する可能性があるので注意が必要です。。
血圧のコントロールが良好であれば、通常のインプラント治療で問題が生じる可能性は少ないが、手術中の緊張により血圧が上昇して止血困難となる場合や、術後出血が起こることもあるので注意が必要です。
麻酔剤は、1 回の投与量が40μg(1/80,000 アドレナリン含有2%リドカインカートリッジ3.2 mL)までであれば循環動態に及ぼす影響は少ないとされています。
狭心症は、投薬により良好にコントロールされていればインプラント手術が可能ですが、術前に発作時の対応(ニトログリセリンの準備など)を十分に確認しておく必要があります。
抗血栓療法を受けている方は、局所止血で対応します。局所止血は縫合、パック剤、止血床により物理的に止血を行います。多数のインプラント体の埋入は避け、内出血斑(皮下出血)出現の可能性を事前に説明する必要があります。
■ 糖尿病
高血糖は組織、細胞を低酸素状態に陥らせ、好中球の機能を低下させ、創傷治癒不全の原因となります。また、オッセオインテグレーション獲得を阻害する可能性があります。 術創治癒不全のみならず、経過中のインプラント周囲炎発生のリスクともなります。
従って、糖尿病はインプラント体埋入手術、予後に対するリスクファクターになります。
インプラント埋入手術では、通常の待機手術の糖尿病の基準である空腹時血糖:140 mg/dL 以下、ケトン体(—)、HbA1c:6.9%(NGSP 値)未満を適用します。手術中、手術後の低血糖、高血糖に注意します。
■ 骨粗鬆症
骨粗鬆症は、手術時の全身的なリスクとは無関係ですが、インプラント治療の成功を妨げる全身的リスクファクターとして問題となる疾患です。インプラント周囲の骨密度が減少するとオッセオインテグレーションに時間がかかったり、うまく結合しなかったりします。術後の発症にも注意が必要です。正常なリモデリングが不能となり、オッセオインテグレーションの維持不能となることがあります。
骨粗鬆症の治療薬であるビスフォスフォネート系薬剤に関連する顎骨壊死の多くは、抜歯やインプラント手術といった顎骨に侵襲の及ぶ観血処置をきっかけとして発症し、きわめて難治性の疾患であり、治療法も確立していないので、インプラント体埋入手術は原則として禁忌です。
■ 経口抗凝固薬あるいは抗血小板薬を服用している方
抗血栓療法を受けている方のインプラント体埋入手術に関するエビデンスは不十分です。
多数のインプラント体の埋入は避けます。
内出血斑(皮下出血)出現の可能性があります。
致命的な血栓形成を予防するために抗血栓薬は継続し、異常出血に対しては局所止血で対応します。
局所止血は縫合、パック剤、止血床により物理的に止血を行います。
処方医や口腔外科専門医との医療連携が重要です。
※ 抗凝固薬:ワーファリン(ビタミンK 拮抗剤)、イグザレルトなど
抗血小板薬:プラビックス、パナルジン、バイアスピリン、バファリン、プレタールなど
■ ステロイド薬を投与されている方
ステロイド薬投与の最大の副作用は易感染性です。そのため、術後感染やインプラント周囲炎の重篤化のリスクファクターとなります。
ステロイド薬は骨形成・骨吸収に影響を及ぼすため、オッセオインテグレーションの獲得・維持に大きな問題となります。
■ 喫煙
喫煙はインプラント手術後の治癒と生着および予後に対するリスクファクターとなります。
喫煙者は粘膜に慢性炎症が存在するため、非喫煙者と比較してインプラント治療の成功率が低いことが報告されています。骨移植においても非喫煙者と比較して成績は不良です。
喫煙を継続すると歯周病が悪化するだけでなく、インプラント周囲炎やインプラント周囲骨の吸収を惹起する可能性が高くなります。
■ インプラント治療に対する総合診断
全身および局所状態の診察・検査を通して得た診断結果を合わせ、総合的なインプラント治療に対する診断を行います。
1. 長期的に安定的な予後が期待できる
2. 長期的に脅威をもたらすリスクがある
3. インプラント治療を断念すべきす。