ひたすらブラッシングを行っている、歯科医院で歯石を取ってもらっているだけでは、
「なかなか歯周病が治ってこない」ことを実感している方が多く見受けられます。
歯周病には、かかりやすい、治りにくい、再発しやすい、といった特徴があります。
それを克服するには、
1.原因やリスク因子の除去、
2.歯周組織のボリュームの改善、
3.再発予防のメインテナンス といった要素が大切になります。
1) プラーク(歯周病原菌)除去、
2) リスク因子の除去、
3) 咬合のコントロール の3つを行います。
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1) プラーク(初発因子である歯周病原菌)、歯石(エンドトキシンなど)の除去
歯周病のほとんどはプラークを主因とした歯肉炎と歯周炎であり、これらを治療する基本は、 第一に主因子である プラーク(歯肉縁上プラークと縁下プラーク)を取り除くことです。特に歯磨きが行き届かないポケット深部のプラークの除去は重要です。
プラークコントロール(出来るだけお口の中からプラークを減らす)とそれが付かない環境を作り出します。それにはモチベーションも大事になります。
・ ブラッシングを十分に行う(正しいブラッシングでプラークが十分に取り除けている事が重要です。)
・ デンタルフロス、歯間ブラシ、ワンタフトブラシなどを併用する
・ 歯石を取る(スケーリング ルートプレーニング SRPといいます)
・ PMTC(プロのクリーニング)を定期的に受ける
・ 歯周内科の治療(抗生物質などの薬を使った治療)を受ける
現代の食生活は、細菌性プラークの付着しやすい状況にあることから食生活の改善を含めた保健指導などが必要となります。
※ 適切な抗菌薬を投与するにあたり、歯肉縁上プラーク量が低く保たれていること、 バイオフィルムのメカニカルな破壊、除去が達成されていることが条件です。
※ 口腔衛生状態(O'Leary のプラークコントロールレコード)は、プラーク染色液を用いて、近心、遠心、唇頬側面、舌口蓋側に4 分割し、各歯面の歯頸部において細菌性プラークの有無を判定します。 通常 20%、手術予定の場合には 10% 以下を目指します。
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2) リスク因子除去とは
修復因子とも言われ、初発因子(プラーク)を増加させたり、歯周病変を悪化させたりするものです。局所性修復因子と全身性修復因子があります。(1) 局所性修復因子
a) プラーク増加因子を取り除く
・ プラークを増加させたり取り除きにくくするプラークリテンションファクター
(歯石、歯列不正、不適合修復物、食片圧入、口呼吸、小帯異常、ポケットなど)を除去したり 改善します。
・ 歯石を取る。歯石は表面がザラザラでプラークがたまり易く、歯周病菌の出す毒素もたまる
・ プラークがたまる原因となるザラツキや凹みのある虫歯、マージンが不良な修復物をなおす
冠の下の根元にはプラークがたまりやすく、気が付かないうちに虫歯になり、ますます、たまりやすくなることが多い。
・ 歯磨きが上手くできないような不正咬合を矯正治療する
・ ブラッシングの効果を妨げる小帯、ポケットをさらに悪化する浅い口腔前庭の改善も考慮する
・ 根の先まで骨が溶け、歯周病菌の塊であるプラークがポケット内に溜まり、お口の中にまき散らしているような保存不可能な歯の抜歯をする
b) 食事を工夫する
・ 柔らかく粘着性のある食べ物はリスクとなります
・ 食片圧入(歯肉に食物を詰まらせる)もダメです
c) 歯周ポケット
・ 歯石除去(歯肉縁上、歯肉縁下)により歯周ポケットの改善を待つ
・ 歯周病の進行を示すBOP(Bleeding on Probingプロービング後 30秒以内に出血してきた部位)をプラークコントロール徹底により減らす。
・ 重度の場合には歯周外科手術(フラップオペ、歯肉移植)、歯周再生療法などをして改善する
(2) 全身性修復因子体の免疫力を落とし結果的に歯周病原因菌の活動を高めたりたり、歯周病の進行を助長するようなリスク因子です。
・ 糖尿病、骨粗鬆症など、全身的な持病の治療・管理が必要です。
・ 薬剤 免疫抑制剤、ステロイドなど
・ タバコは、ニコチンによる血管収縮で免疫力が落ち、タールによる歯面のザラツキでプラークがたまり易い。是非とも禁煙したいものです。
・ ストレス、疲労も免疫力が落ち歯周炎を悪化します
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3) 咬合のコントロール
歯周炎の軽微な炎症に異常な力が加わると、歯周組織の著しい破壊となります。中等度から重度の歯周炎に罹患した歯は、大多数が二次性咬合性外傷を併発していると言われています。
咬合調整により、外傷性咬合とくに早期接触や咬頭干渉を取り除きます。
・ 外傷性咬合は、早期接触(咬み合わせのバランスを崩してその部分だけ早く当たる)、側方圧(歯は横揺れに弱い)などです。咬合調整、矯正歯科治療、咬合再構成などを行います。早期接触に適応するため、歯が動揺、移動したり(病的移動)、咬耗(過度の咬耗)したりします。側方圧の生じる部分や広い面接触の部分を削合して、咬合力を軽減します。
・ 歯の位置異常を修正する歯科矯正治療は、咬合性外傷の改善やプラークコントロールの効果を高めます。
・ 歯ぎしり、食いしばり、歯列接触癖といった過大な力は、歯周を破壊へと導きます。ナイトガード、咬合調整などで対応します。
・ 摩耗面などの歯に負担のかかる部分の咬合調整は、広い接触部を点状にして負担のかからないようにします。
・ 咬合性外傷に関連する検査項目には、エックス線写真(歯槽骨の吸収、歯根の長さ、歯根膜腔の拡大)、歯の動揺度、フレミタス(咬合接触時のわずかな振動)、残存歯数、咬合(ブラキシズムの有無、咬合力の強さなど)があります。
・ 咬合性外傷は、深部歯周組織 (セメント質、歯根膜、歯槽骨) の傷害で、その所見は、歯の動揺、エックス線写真における歯根膜腔の拡大、垂直性骨吸収像です。
・ 歯列全体の咬合関係(不正咬合)の改善も必要です。
・ 欠損の状況によっては、残存歯の咬合力の負担を軽減するために、連結冠、ブリッジ、義歯等による処置が必要です。
ポイント 2 失った歯周組織を取り戻す(歯周組織のボリュームの改善)
原因(プラーク、リスク因子)を取り除き、咬合を改善して
1) スケーリング ルートプレーニングを徹底的に行います。
しかし、歯周病は、初発原因となるプラーク(歯垢)と、リスク(修復)因子が複雑に絡み合い、一旦破壊された歯周組織は初期の場合は改善されてきますが、重症な場合には元の量に戻ってきません。そこで行われるのが次のような方法です。
2) フラップ手術
フラップ手術は、歯肉剥離掻爬術といい、深い歯周ポケットの改善や不良肉芽の除去を目的とします。
スケーリング ルートプレーニングだけでは届かないような重症で深いポケット内部の歯周治療をします。さらに必要に応じて歯肉や異常な歯槽骨の形態を整え、歯肉弁を適切な位置に復位させ縫合し、再付着を図ります。
この手術は,垂直性骨吸収により骨縁下ポケットが存在している症例、歯槽骨の形態が異常で歯槽骨整形術や歯槽骨切除術が必要な症例、根分岐部病変の症例など適応範囲が広い。
薬物を用いてプラークを取り除く化学的方法は殺菌消毒剤などを用いるため長期間行うと副作用が発現する危険性があり,手術直後など物理的方法が十分行えない場合に補助的に使用します。
3) 歯周組織再生療法
失った歯周組織のうち、特に歯槽骨は取り戻すのが難しいとされます。
(1) 歯周組織再生剤(リグロス)
遺伝子組換えヒトbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)製剤です。歯槽骨、セメント質及び歯根膜の再生を促進し、結合組織性付着を形成させます。
(2) エムドゲイン法
エナメルマトリックスタンパク質(EMD)と言わる薬を歯周外科時に歯根に塗布して歯周組織の再生を図ります。
(3) 骨移植
自家骨移植、骨伝導性基質(βリン酸三カルシウムβ-TCP)や炭酸アパタイトなどを用いた治療です。
4) 歯肉移植
ブラシを当てると痛くて磨けない場合や、歯肉が痩せた(歯肉退縮)場合に行います。
(1) 遊離歯肉移植術FGGは、付着歯肉の幅を増して歯周を安定させます。
(2) 結合組織移植術CTGは、歯肉のボリュームを増やし歯周を安定させます。
歯肉退縮は、誤ったブラッシングによる機械的なもの、辺縁歯肉の炎症、加齢的なもの、対合歯喪失による廃用性萎縮などによって生じます。
5) インプラントの活用
欠損補綴にインプラントを応用することは、支持力の低下した残存歯の保護と歯列の連続性の獲得の観点からも利点といえます。
歯周治療の一環として生涯にわたる継続管理〔サポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)、メインテナンス、歯周病重症化予防治療〕が不可欠です。
メインテナンスは、歯周病予防の最も大切なことです。日常のブラッシングや定期健診は、忘れないようにしましょう。定期的に歯周炎のチェック、咬合のチェックを受け、全身的なリスクにも配慮コントロールすることで再発を防げます。また、歯肉退縮や根分岐部に露出が見られる場合には、歯根面から虫歯ができやすいため、メインテナンス時にチェックが必要です。病状安定(まだ完全に健康を回復していない状態)と判断された場合には、SPT(プラークコントロール、スケーリング・ルートプレーニング、咬合調整などの治療を主体とする)あるいは歯周病重症化予防治療(P重防)(モチベーションの維持、プラークコントロール、スケーリング・ルートプレーニング、専門的機械的歯面清掃など) へ移行します。
歯周治療の成否は、プラークコントロールに大きく左右されます。歯周治療全体を通じて(開始時からSPT まで)、十分な指導管理が行われている事が重要です。さらに、プラークコントロールは、歯科医療従事者とあなたとが協力して行うことで成功するものです。モチベーションを維持し、歯肉の変化や修復物装着による口腔状況の変化にも対応して良い状態を保つことが大切です。
- ・ プラークのチェック
- ・ 咬合のチェック
- ・ リスク因子のチェックとコントロール
- などを行い、歯周検査や画像診断などを行います。