根管治療に顕微鏡を使う理由
マイクロスコープ(歯科用顕微鏡治療)を根管治療に使用する第一のメリットは、精密な診査・診断・治療ができることです。
根管治療を成功に導くために重要なことは、根管内の感染源をできるかぎり除去することです。しかし、
根管はとても狭く複雑に入り組んだ形 (イスムスやフィン、根尖分岐などがある) をしており、光も到達しにくいので、単純な機械的操作(器具は円形で根管の形態とは合ってない)だけでは感染(虫歯や神経の残骸)を取りきることができないのです。歯科用顕微鏡下では、明るく拡大された視野の確保ができるため、根管内の精密治療に適しています。
※ マイクロスコープは照明軸と観察視軸が近いため、根管の中に光が入り明視野で治療ができます。
従来は、電気的根管長測定器と、手指の感覚と勘、その都度のレントゲン撮影で診療をしていました。
実際、見えているようで見えてない治療をしていたかもしれません。
当然見落としが発生して感染源が残りやすく、再治療になるケースも多いのです。
「指先の感覚と勘に頼ったラフでクラシックな技術」が, マイクロスコープ(顕微鏡)の応用によって 「非常に明るい照明の下で完全に目視可能な状況下での精密でモダンな技術」へと飛躍的な技術革新を遂げました。
< 顕微鏡を使って根管の精密治療をする その要件とは >
1.
歯科用CT撮影による確実な診断、
2.
マイクロスコープを使った精密根管治療、
3. 屈曲根管にも対応できる
ニッケルチタンファイルとロータリーエンジンによる効率的でコントロールされた治療
歯科用マイクロスコープを使用した顕微鏡治療をおこなうことによって歯の内部を拡大視して見ながら根管を探索して、汚染物質や変性した根内の象牙質を除去して、確実な根管の治療を行います。
根管系のどこに感染源が存在するのか、垂直性歯根破折の有無などの診断・治療が重要です。
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a. 同軸照明
視線と同軸(拡大率が周辺と真ん中で違うということがない)で見えるので長時間でも疲れません。
長時間の根気のいる根管治療には「疲れない」ということは、欠かすことのできない条件です。
※ 同軸照明の特徴
観察光路と照明光路が同軸になっている冷光源ファイバーライトガイド式同軸照明だと、細い根管の奥まで観察可能で、視野を周辺部まで均一に照らす事ができます。
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b. 拡大視野
ルーペでは倍率が2〜8倍程度で、周辺と真ん中の拡大率も違い、歪んで見えます。
振れて、はっきりと見えないという点では、肉眼と殆ど変わりません。
顕微鏡では、はっきりとした画像で、最低3.4倍、最高21.3倍です。この違いは大きいです。
※ ルーペとは、眼鏡に虫めがねが組み合わせてあるものです。眼精疲労をおこしやすい。
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c. よく見える
見えていないことでの見逃しによる再発・再治療を防ぎ、今まで以上に良好な経過を得ることができます。
たとえば、根の先端からのわずかな浸出液(膿になる前のもの)や根管の汚染でも把握可能です。また、根尖病巣により、歯肉から膿が出ているポイント(フィステル=炎症の存在)が小さい場合でも正確に把握できます。
※ サイナストラクト(フィステルFistel婁孔)とは、歯根の周囲やあごの骨の中に溜まった膿が外に出て行く穴(排膿路) のことです。肉眼的には、白くプチっとした(ニキビのような)出来物に見えます。
根管壁の汚れや破折線(クラック)等は、顕微鏡の視野の角度を変える、染出すことにより、はっきり確認します。その上で対処方法を探ります。
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d. ニッケルチタンNi-Ti ロータリーファイルによる根管治療。(当院使用)
低速回転マイクロモーターを連続回転させることで切削効率を向上させたNi-Ti ロータリーファイルを使用して、効率的な根管形成を行っていきます。
Ni-Tiファイルは、超弾性の形状記憶合金で柔軟性がり、湾曲根管や非常に細い根管においても優れた追従性を発揮ます。
柔らかく弾性に富んだ素材であるため、根の湾曲に沿ってしなり、神経の組織や汚染物を効率よく取り除く事ができます。従来のステンレススチールファイルでは、弾性もなく、オリジナルの根管への追従性もないため、#25〜#30で多くの臨床的エラー(ストリップパーフォレーションやレッジ等)が起こっていました。ニッケルチタンファイルでは、根尖付近で、レッジやジップといった、根管充填時に緊密な根管封鎖を阻害する、不適切な根管形態が付与される危険が少なくなります。しかし、Ni-Ti ファイルは破断トルク値が小さく、無理に回転させると破折しやすいので、大きなテーパーを持ったファイルで、順次クラウンダウン法で形成します。レシプロ回転(反復回転運動)で形成することもあります。手用では切削効率が悪いため、トルクと回転速度をコントロールできるロータリーエンジンを用いて、根管拡大形成時に使用します。
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e. 歯科用CT (コンビームCT) の活用
歯科用のCTは、一般的に行われている二次元のX線写真では判定できない根管の構造を三次元的に考察でき、複雑な根管の走行や根尖病変の広がりを事前に把握することが出来ます。的確で効率的な根管治療には欠かせないツールです。
例えば、圧平されている歯根でCTにより2根管確認されれば、舌側を見逃さないように予め髄腔開拡は楕円形に形成します。
■ 抜歯を宣告された歯の根管治療 ■
何度も歯茎の腫れを繰り返していて、根っこに大きな膿の袋があるため、抜歯を宣告されました。
「マイクロスコープを使った根管治療が最後の望みです。」と来院されました。
左から、術前→根管充填の直後→半年後のレントゲン像です。
根の先の大きく黒く見える影は、右に行くにしたがって薄くなっています。(根尖部の炎症が消退していることを示唆しています) 上顎洞に広がっていた粘膜の肥厚も治癒していきます。
根管からの汚染物質の除去である洗浄(充分な根管洗浄)と、その後の拡大したスペースの三次元的封鎖(根管充填)しっかり行う事。それができる限り無菌的に行われる事が治療の重要なポイントです。
このケースでは、根管治療中に薬液が漏洩したり、再感染しないように、レジン隔壁を作成しました。
半年後(右側レントゲン)では、根元の黒い影が薄くなってきているのが観察されます。
さらに上部補綴物をかぶせて機能(上下の歯が咬み合う)させることが大事です。
たとえ根管内をしっかり清掃し、根管充填(根管壁の象牙質と根充剤は密着しているレベルで、封鎖性はそれほど高くはありません。)したとしても、歯冠側からの漏洩があった場合には、根管はあっという間に汚染されてしまいます。 根管治療は上部の補綴物装着までしっかり行って初めて完結するのです。
■ レントゲン透過像だけで即断しない
再根管治療の治癒には時間がかかり、外科的歯内療法に比べると治癒の速度が遅い。12 カ月の時点では両者の治癒の状態に有意な差が認められるが、48 カ月になるとその差はなくなります。このことから、レントゲン透過像の有無だけで治療の不成功を判断するのは危険です。
■ 根管治療難症例(樋状根) ■
樋状根(樋状根)は、C-shaped rootと言われ、頬側で近心根と遠心根が癒合して、根尖孔が縦向きに楕円形状を呈している根管です。
下顎第二大臼歯に出現することが多く、根管の走行と根尖孔の位置が様々なものがあり、単純な円形をしていない(扁平、枝分かれ、屈曲など)ために内部の治療が難しいと言われています。
また、樋状根の舌側の象牙質の厚みは、頬側よりも薄いことが分かっています。(根管形成時に注意)
根尖孔まで樋状ということはまれで根尖孔は1〜数個です。根管の間はイスムスあるいはフィンであると考えてファイリングだけでなく超音波による清掃も必要になります。
痛みと噛んだ時の違和感があるために、何度も根管治療を繰り返していました。
根管の扁平の部分を重点的に、超音波チップとジロソニック(音波振動装置)を使い根管洗浄を十分に行いました。(通常のファイルなどによる機械的清掃だけでは不十分なためです。)
また根管充填はCWCT法との組み合わせによる3次元的根管充填 (三次元的にあらゆる方向から見ても緊密な根管封鎖を達成する) を行いました。
■ MM根(ミドルメジア根)■
通常は近心2根管ですが、その真ん中にもう1根管MM根が存在する場合があります。(下の第一大臼歯)
珍しいと言われていますが、マイクロスコープでよく観察して根管治療をしていると下顎の大臼歯に出現することがあります。
■ 外科的根管治療(歯根端切除術)の症例 ■
根管治療だけでは治らない難症例の場合があります。抜歯の一歩手前の重症の歯を残す治療方法です。
※ 根尖孔外の感染やセメント質に感染が及んでいると、通常の根管治療では治らない症例があり、そのような場合には外科的歯内療法の適応となります。
根元に、ニキビの様な出来物(左写真)があります。根管治療だけでは治ってこないため、歯根端切除術を行いました。歯の根元の骨はすでに外側まで溶けていました。 歯根の外側には嚢胞(いわゆる膿のたまる袋、中央写真)が独立して存在し、摘出して、歯根端切除をしました。病変除去の後(右写真)MTAにて逆根充を行い、元に戻して縫合します。
※ MTAセメントは、水分環境下でも硬化して封鎖性が良く、生体親和性に優れています。
MTA の上には、セメント質が直接再生されることが組織学的に報告されています。
この手術は、マイクロスコープを使って顕微鏡下で行うことにより、格段に精度がよくなります。
特に、根元の不良肉芽除去(汚染病変除去)や根の先端部の処置に優れています。
■ 割れている歯 ■
歯茎の腫れが続いたり、噛むときに痛むようなケースの中には、歯が割れている事があります。
ヒビが深部にまで至る、歯が割れているなど修復不能な場合には、抜歯に至る可能性もあります。
放置すれば歯根周囲の健全な組織を失い、後々の治療を困難にするので注意が必要です。
■ 穿孔部封鎖処 (パーフォレーションリペア) ■
穿孔とは、根管内と歯根表面が交通して出来てしまった穴のことです。封鎖材料として使用されている材料のなかで、最も良好な成績をあげているのがmineral trioxide aggregate(MTA、プロルートMTA) です。